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サイドブレーキ一つ隔てて

「久留間くんね、海外の出張中に現地の紛争に巻き込まれちゃったんだって」

久留間は海外になんて行っていない。

「悲しいよね、きっと最期は家族に会いたかったよね」

久留間は家族の名前ひとつ、口には出さなかった。


なおも美咲は助手席で、学生時代の思い出や、同窓会での久留間の様子を涙声で語っている。俺は運転に集中する振りをしながら、時折相槌を打つように美咲の話を聞いていた。
美咲は知らない。久留間の本当の最期を。

でも、それでいい。それが日常だ。
俺はそんな姿をこちら側から見つめて、世界がまだ、存在している事を感じることができる。
人生の半分以上を過ごしてきた、戻る事のないその日常を。